I. Buffonge:The Vegetarian/Vegan Lifestyle. West Indian Med. J. 49: 17-19 (2000)
ビーガンの食事に関して、蛋白質、脂肪、炭水化物、
及びその他の成分に基づく健康的効用について述べる。
カリブ海地域の住民は不幸にして西洋型のライフスタイルを取り入れたため、
いわゆる生活習慣病が住民の間で最も多い病気となっている。
これらの病気は各自が健康的な食事と規則正しい運動をすることによって防ぐことができる。
ビーガンのライフスタイルも一つの健康的な選択肢である。
健康的な食事は、炭水化物、蛋白質、繊維、脂肪、水、ミネラル、及びビタミン類が
十分に供給されるものでなければならない。
ビーガン食はこれらを十分に、しかもより健康的な形で摂ることができる。
ビーガンの優れた蛋白質源は豆類、ナッツ、種子などである。
豆類の蛋白質は理想的なアミノ酸組成を有し、カルシウムの排泄を減らす性質がある。
これに反して、動物の蛋白質は硫黄含有アミノ酸が多く含まれ、
代謝によって過剰の水素イオンが発生してカルシウムの排泄を促進する。
従って動物蛋白質の代わりに豆類の蛋白質を摂取することは骨密度の維持に役立つ。
大豆に多く含まれるイソフラボン類は、ある種の癌や骨粗鬆症、心臓病、
更年期障害などの予防、治療への応用が期待されている。
1991年以来、大豆食を規則的に摂ると乳癌のリスクが減少することが知られている。
前立腺癌の研究では、大豆のイソフラボンの一つであるgenisteinがin vitro(培養環境下)で
前立腺癌細胞の増殖を抑制することが認められている。
最近の研究では、ベジタリアン食が関節痛の予防と治療に役立つことが示唆されている。
肉類が消化される際、大腸で細菌によってある物質が生成し、
それを抗原として作られる抗体が関節で自己免疫反応を起こすという仮説が立てられている。
実際に1ヶ月間ベジタリアン食に切り換えただけで、関節リウマチの全ての指標が減少した
ことが報告されている。
植物性の脂肪は大部分が不飽和脂肪酸から成り、高密度リポ蛋白質(HDL)の
生成を促進するため、心臓病の予防に役立つが、飽和脂肪酸の多い動物性脂肪は
低密度リポ蛋白質(LDL)の生成を促進して、動脈硬化、心臓病の原因となる。
アボカドは83%が脂肪(ほとんどがモノ不飽和脂肪酸)であり、
心臓血管系の健康や癌の予防に有用な食品である。
ビーガンの炭水化物源は未加工の穀類、粉製品および豆類であり、
これらは白米や白パンのような精製された炭水化物に比べて、
ブドウ糖、繊維、ビタミン、ミネラルをゆっくりと放出する。
精製された食物はかさが小さく満腹感がないので、つい多量に食べがちで、
早く消化されて脂肪として蓄えられる一方で、再び空腹を感じるようになる。
繊維、ビタミン、ミネラルは食事にとって不可欠であるが、
ビーガン食にはいずれも豊富に含まれている。
繊維は腸の内容物にかさ高さを与え、腸の通過時間を速くする。
このことは毒物や発癌性物質を産生する腸内細菌との接触時間を短くすることになる。
幾つかのビタミン類は抗酸化作用によって癌予防に役立つ。
一方、ビーガン食には鉄、カルシウム、及びビタミンB12が
不足しているのではないかという問題が提起されている。
しかし鉄、カルシウムは豆類、ナッツ、種子などに充分含まれ、
ビタミンB12 は小麦胚芽、酵母、クロレラなどある種の植物には含まれている。
ビーガンの中には、より良い身体的、精神的健康を求めて、
調理しない生のビーガン食のみを口にする「生食主義者」の段階に進む人達がいる。
生の食物は調理によって起こる栄養素の破壊や変形、酵素の分解などが防げるため、
より効果的に消化され、代謝される筈である。
(抄訳:岡 良和、薬学博士)
コメント:ベジタリアン食による生活習慣病の予防効果はかなり確立されてきたが、
卵乳ベジタリアンに比べ動物性食品一切摂らないビーガンは
栄養的・健康的に十分かという論議が常になされてきた。
今までの研究結果からは、ビーガン食は栄養的にも十分であるとの見解を支持する論文が多いが、
この論文もその一つである。著者が指摘しているように、
ビーガンでよく問題になるのは、鉄・カルシウム・ビタミンB12である。
著者はこれらの不足の問題はないとしているが、
これらの必要量が増す乳幼児・妊婦においては、より一層の注意が必要であろう。
特にビーガンの母親から生まれた乳幼児のビタミンB12欠乏症などが報告されているので、
このような場合は、適当なサプリメントの摂取を考慮するべきであろう。
(山形 謙二、神戸アドベンチスト病院院長)